shop.holidaymoments.ae | 15.0%割引 さよならを教えて 設定資料&原画集[増補改訂版]

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アート・デザイン・音楽

「‥‥あのさ、スーパーマリオってあるじゃん?」
「はあ?」
 保険医の口を突いて出たのは、あまりにも突拍子のない言葉だった。
 スーパーマリオ。僕の年代で知らない者はいないと思う。とりあえずは。
「もちろん知ってますよ。ゲームでしょう?」
「あれってさ、どんな内容だった?」
「‥‥敵を倒して、キノコ食べて、土管に入って‥‥」
「それがどうかしたんですか?」
「あの男は自分のしてることを‥‥どう思ってたのかねぇ」
「どういう意味ですか?」
 大森となえは酷く緩慢な動作で煙草を揉み消した。
 改めて顔を上げた彼女の顔は、思いのほか真剣なものだった。

「狂った話だよねえ‥‥」
「‥‥?」

「幻覚キノコを食べて、身体が大きくなる‥‥」
「はあ?」
「花を取ったら火が吹けて‥‥」
「‥‥それがどうしたんですか?」
「大麻のさ、一番キくところって知ってる?」
「は? 知りません」
「トップっつってね、要するに花なんだけど」
「はあ‥‥」
「ある男が拾ったキノコを食べて、自分の身体が大きくなった気がした」
「はあ‥‥」
「花を食べたら火が吹けて、自分以外の動く者は全部敵…」

 言わんとしていることはわかってきた。
 バカなことを。僕は笑った。

「マリオはジャンキーだって言うんですか? でも、そんな。くだらない。もともと御伽話みたいなものじゃないですか」
「‥‥で、さ。彼の目的ってなんだったっけ?」
「お姫様を救うこと‥‥でしょ?」
「そうなんだよね‥‥」
「騎士道精神ってやつです。御伽話の基本です。立派なことじゃないですか」
 大森となえは無言で煙草に手を伸ばすと、一本くわえて火を点けた。
 溜め息を吐くように吐き出した煙が‥‥僕の視界を白に染めた。

「お姫様なんて、本当にいるのかねえ‥‥」
「あははっ、女のコは白馬の騎上、男のコはお姫様。お互いそんなこと言う歳でもないじゃないですか」
「いたとしても、本当に『怪物』に囚われているのかどうなのか‥‥」
 となえはそれきり、ムッツリと黙り込んでしまった。
 歳の話をしたのが気に障ったのだろうか。だとしたら大人気ないことだ。
 ともあれ、こんなくだらない話にこれ以上付き合うこともないだろう。
 マリオ? マリオがどうしたっていうんだ? だいたい…。

 ああ、そうか‥‥。

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